時効というと、一般的にはテレビのニュースや刑事ドラマで事件が時効にかかったとか、時効直前に犯人がつかまったとかといった話を想起すると思いますが、ここでの説明は民法の時効、つまり、権利が消滅したり権利を取得したりする場合についてです。
一定の時の経過によって権利を消滅させる制度を消滅時効といい、一定の時の経過によって権利を取得させる制度を取得時効といいます。ちなみに、よく飲み屋のつけは1年で時効などといいますが、これは前者の消滅時効のことを言っています。
なぜ時効という制度があるのかといえば、まず、永年続いている現在の事実状態を尊重する必要があること、また証明が困難になるということ、そして権利の上に眠るものは保護に値しないという考えがあることです。とりわけ、2番目の債務者が支払ったことを証明することの困難さが、時効制度の根本的な理由です。たとえば、何年も前の領収書を保管している人は少ないでしょう。そういう場合、すでに支払った可能性があるにもかかわらず、支払ったことを証明することができません。こういうときに時効制度が生きてくるわけです。
時効の援用とは
債権の消滅時効は、それによって利益を受ける当事者が主張したときのみ認められます。(145条)当事者が時効の利益を主張していないときに裁判所が時効によって消滅とすることはできません。
借金も時効だと思ってほったらかしておくと、あとでとんでもない失敗をする場合があります。
時効の中断
債権者が訴訟をおこしたのに、判決が出る前に時効期間が満了してしまうと、債権者は権利の行使をしているのに権利が消滅することになってしまいます。また、債務者が債務を承認しているときは、上記のように、返済したかどうかで事実関係が争いになる可能性はありません。
そこで、民法147条は、①請求、②差し押さえ仮差押さえ、または仮処分、③債務者の承認があった場合には、時効が中断すると規定しています。
さて、①ですが、これは裁判上の請求が建前です。裁判外での手紙などによる請求(催告)の場合は6ヶ月以内に裁判等の公の手続きをする必要があります。(153条)たとえば、あと1週間で時効というときは、とりえあず内容証明郵便で催告を行い、それから6ヶ月以内に裁判等の公的手続きをすれば、時効中断の効力を生じます。
③は、債務者がたとえば、「あと1ヶ月待ってくれれば払えるから」などと債権者に手紙を書いたりすれば、時効の進行はストップし、時効は振り出しに戻ります。
時効の放棄
時効の利益はあらかじめ放棄することができない(146条)とされています。これは、たとえば、闇金業者が、立場の弱い債務者に時効の利益を放棄するという条文を契約書に入れるような場合を防ぐためです。そのような条項は無効となります。逆に言えば、時効期間経過後に時効の放棄をすることはできるということです。
では、時効期間がすでに経過しているときに、債務者が時効のことを知らずに、債務を承認する場合についてはどうでしょうか。これについて判例では、時効のことが念頭になかったとしても、一度支払いの意思を示した以上、あらためて時効を主張することは信義則(民法1条2項)に反するのでできないとされています。
時効の停止
時効中断の手続きをとろうにもそれができないような場合があります。たとえば、大地震のような問題がおきて物理的に訴訟できなかったという場合に、時効期間満了となれば、不公平になります。そこで、そのような一定のやむをえない場合に、時効の完成が阻止されることがあります。これを時効の停止と呼びます。(161条など)